2022
12.15

対談レポート「フェアトレードと顔の見える家づくり@木更津金田」前半

家づくり・建築のこと

2022年12月4日、フェアトレードブランドのピープルツリーで長年活動されている胤森なお子氏をお迎えして、トークイベント「フェアトレードと顔の見える家づくり」を開催しました。
「スケジュールが合わずに参加できなかった」「話を聞きたかった」という声をたくさん頂戴しましたので、トークイベントにご参加いただけなかった方のために対談の内容をここでご紹介します。

 

 

自然素材でリフォームしたのは何故ですか?

市川

今日は家づくりのイベントということで、まずは家の話をしていきたいと思います。
胤森さんはご自宅を漆喰と無垢の木でリフォームして、そこに住んでいらっしゃいます。
そもそも、自然素材を使ってリフォームしようとされたいきさつ、また、実際に住んでみてどんなふうに感じていらっしゃるのか。そのあたりのことを、お話しいただけますでしょうか?

 

胤森

はい。まずは、ピープリツリーのチョコレートを召し上がりながら、お話を聞いてきただけたらと思います。
ピープリツリーのチョコレートは全部で16種類あるのですが、今日はその中から10種類をお持ちしました。

(写真はこの日ご参加された方にプレゼントさせていただいたピープルツリーのチョコレートです。牛乳を使っていない「ベジ」と呼ばれるチョコレートもラインナップされています)

わたしは17年間、フルタイムでピープルツリーの活動と、フェアトレードの全国のネットワークの仕事をやってきました。
2016年に社内の体制が変わることを期に、少し時間に余裕をもって、自分の地元でも活動をしたいな…ということで、今はピープルツリーの仕事は週に2~3回、フリーという形で携わっています。

グローバル・ヴィレッジとというのは、もともとピープルツリーが生まれたときのNGOなんですけれども、創業者がずっと代表を務めていたのを、2016年にわたしが引き継いでおります。

フェアトレードの仕事をする中で、チョコレートもそうですけれど、洋服ですとか、身の回りの物のいろんな問題点が見えてきて、フェアトレードを仕事としている自分としては背景がわかる、自分で納得できるものを選びたいなぁと思う様になって、例えば食べ物はできるだけオーガニックなものを選ぶとか、そういう選択がだんだん自分のプライベートの生活にも増えていきました。

そんな中、2015年に大田区の糀谷にある鉄筋3階建ての建物に移り住むことになりました。
といっても、1階は店舗になっていて私の住まいは2~3階が内階段でつながるメゾネットタイプの住戸です。

引っ越すことが決まってそろそろリフォームのことを考えないと~と思っていた矢先、ほんとうに偶然エアサイクルハウジングのカタログと出会いました。それで、話を聞きに伺って、そしたら、市川さんとすごく意気投合してしまって、3時間くらい、食べ物の話とか暮らしの話とかそういうことでものすごく話が盛り上がりました。
その日帰宅してから「
わたしはエアサイクルハウジングに決めた」と家族に報告したんです。するとビックリして、「他の会社も見てみたら?」って言われたんですけどね。でも「わたしはこの会社に仕事をしてほしいから」と言ってあっという間に決めました。

 

市川
ありがとうございます。

 

胤森

エアサイクル工法ももちろん素晴らしいんですけど、わたしのところは鉄筋の建物なので、木造の家にすることは叶わなかったんですが、自然素材を使うことで、空気の流れとか気持ちの良い家にすることが出来ますよ…というご提案をいただき、それで、壁は漆喰で、床は無垢の木というリフォームをしました。いくつか間取りも変えて、かなり大きな工事になったんですけど。

特に漆喰の壁は、淡路島のカリスマ左官職人の植田さんに来ていただいて仕上げていただきました。

お見積りいただいた時、この部分だけを漆喰にするなら〇〇円、全部を漆喰にするなら〇〇円というふうに出していただいて。最初は、全部を漆喰にしたら、さすがに予算オーバーになるな…と、じゃあ、寝室だけで…なんて言ってたんですけど、そのうちにいろいろと「職人の貌」という冊子を読んだり、職人さんのエピソードなんかを聞いたりしたら、やっぱりやるなら全部やってもらいたいな…と思いまして、結局全部の壁を漆喰にしました。

お値段は確かにかかりましたけれど、それでもね、とても気持ち良くて。

わたしは家をリフォームするのが初めてだったので、他の材料でやったらどう違うのかという比較はできないんですが、それでもやっぱりとても気持ちのいい家に、今7年、住んでいます。エアサイクルハウジングさんにいい仕事をしてもらったなぁと感じています。

冊子「職人の貌」

 

 

漆喰にシミがついてしまいました

市川
ありがとうございます。その後、胤森さんが運営されているカフェを作られる時にもまた植田職人に漆喰をやっていただきたいという追加のご要望をいただきました。
漆喰は見ているだけでも陰影の美しさとか感じていただけるとても素晴らしい素材ですよね。
ただ一方で、住んだあとのメンテナンスはどうするの?とか、お手入れが大変じゃないの?とか、割れるんじゃないか、ボロボロ落ちるんじゃないか? というご質問もよくいただくのですが、そのあたりはいかがですか?
胤森
うーん…7年経って、困ったことは特にないんですけど。洗面の横のところに色のついたヘアクリームがついてしまって、漆喰のところにシミがついてしまったというのがありましたね。
小さな傷の補修用に漆喰をいただいていましたけど、補修をするほど気になるものではないので、シミのままにしてます(笑)。
市川
漆喰のシミは、カッター等でガリガリ削っていただくと取れます。砂けしとか、サンドペーパーなどで削るという方法もあるので、やってみてください。
削りすぎちゃった~となったら、、、工事部の担当に行かせます!

 

胤森
なるほど、わかりました。

あ、思い出した。
エアコンのダクトが壁に繋がっているところがありますよね。そこに台風の時に水漏れがして、漆喰に縦に水のシミがついてしまって、それは目立つところだし、困ったな…と思ってたんです。

エアコンの掃除を業者さんにお願いした時があって、エアコンを掃除している時に「ここ、シミになってますね」ってお掃除の方が、ガリガリして下さったみたいで。全然目立たなくなりました。

 

市川
ガリガリできるのは、表面を荒らしているパターン仕上げの漆喰の良さです。
「押さえ」といって、昔の寺社仏閣のようなつるっとした仕上がりの漆喰は、あれはあれですごく美しいし、素晴らしい技術です。ただ、その仕上げをしてしまうと、傷ついた時に素人では直すことができないんです。ゴシゴシ…なんてできないから。
ですから、漆喰でわたしがよくお薦めするのはパターン仕上げです。ポイントポイントで「おさえ」のお部屋をつくりたいと言うのはそれはそれでいいかもしれませんけど、普段の生活の場に「おさえ」を使って、気を遣いながら生活していくのは、違うかな…と。ストレスになってしまうのでは?と思うので。仕上げ方法それぞれの特徴をお伝えした上で、どんな仕上げにしますか?という話をするようにしています。大方、その話をするとこのパターン(表面が粗い仕上げ)を選ぶ方が多いです。
あとは、寝室や和室では、わらを入れたものとか、色を入れたものとか、とにかくバリエーションはたくさんあるので、担当とよく打合せをしていただいて、生活にあったものを選んでいただきたいと思います。

フェアトレードと家づくりの共通点

市川
素性のわかる…というフェアトレードの話はわたしの家づくりの理念にぴったりです。
自然素材というのは工場生産されたものではないので、全てが同じではない、全てが違うんです。漆喰でも、その日の温度や湿度によって、作業する職人によって違いますし、無垢の杉といっても、採れた山、管理している人、乾燥方法、流通経路によって、全く違うので。だから、自然素材を使うということは、その相手先が見えないと怖くて使えないんですね。例えば、杉の柱だったら、ここに頼めば安心できるという相手がいること。それが結果的には、お客様に長く安心して住んでいただける家づくりになると思ってます。
漆喰も、東京にもたくさんの左官職人さんがいらっしゃいますし、別に植田さんじゃなくても漆喰が出来る方はいっぱいいらっしゃるんですけど、これまで30年近く、植田さんに漆喰をお願いした物件で大きなトラブルは一軒もないんです。なにか小さな補修がある時も、東京に来るついでの時に修理していただける関係性。そういうものがないと、作り手、会社側は安心できません。でも、一方で今は自然素材の家づくりって、当たり前のようになっていて、テレビでも雑誌でも、あちらこちらで言われてますね。ウェブでクリックしたら、無垢の木が買えたり、漆喰を塗ってくれる人が来るとか…ありますけど。じゃあ、誰が、どんな技術を持った人が来るのか、その人が扱う漆喰の中身は何なのか、木はどこから来てるのかがわからない。
「漆喰を使えばいい」「無垢の木を使えばいい」ではなくて、素材や作り手のことをもっと知っていただいて、誰と一緒に家をつくるのか、を吟味していただきたいなと思います。「顔の見える家づくり」と「フェアトレード」の原点は同じだと思います。

胤森
そうですね。この冊子(カタログ「職人のカタチ)をつくられたことも、すごく珍しいと思うんです。職人さんの冊子って、あまりないですよね。わたしはこれを見てすごく感動して。

やっぱり、物もそうですし、家もそうですけど、その「物」の陰には、絶対にそれをつくった人がいるはずなのに、その人たちの顔が見えないと言うのが、今当たり前になっていて。

昔はね、家だって自分達とか地域の人たちとかでね協力して建てていたのが、今は「業者に発注するもの」になっていて。

エアサイクルハウジングさんの職人に対するリスペクトというのは、すごくフェアトレード的だなと思ってますね。

フェアトレードっていうと、単に賃金の問題とか奴隷労働をやらないっていう、すごく消極的な法令順守レベル…というあたりで理解が止まってしまうことが残念なんですけど。
もっと、つくっていただく人に対してのリスペクトというのがもともと基本にあって。

わたしは(フェアトレードの)仕事で、しょっちゅう現地を見に行ったりしていた訳ではないですけど、インドやバングラディッシュには何度か行ったことがあります。

フェアトレードというのはもともと欧米でのチャリティとして貧しい人に仕事を与えようみたいなところから出発している運動なので。欧米的な「富める者が貧しい者を救ってあげる義務」という考えがちょっとあるんですね。

ただ、日本的に考えたときに、「貧しい人を助けてあげる」ではなくて、「相手に対して敬意をもって対等におつきあいする」という、いわば当たり前のこと。

昔は当たり前だったことを、取り戻す…というような関係作りなのかなぁと思います。

インドやバングラディッシュに行って現地の人とお話しすると、皆さん職人としての誇りを持ってらっしゃるんですよ。たとえば、ニットをつくっているニッターさん。プロとして誇りを持って編んでいる。賃金を上げるために「お願いします。助けて下さい。」という姿勢ではなくて、「わたしにはこんな技術があります。どういうものを作れば買ってくれるのかを教えてくれれば、それを作る自信があります。」という感じなんですね。

そう言う方とお話しして、まさに対等な関係で、その方たちに敬意を表して、商品をつくっていただく、手間に見合うお金をちゃんとお支払する…という、人間として当たり前の関係を築くことがフェアトレードなんだと感じてきました。

エアサイクルハウジングさんの職人さんとの関係とか、あるいは材料の調達方法もそう。
自分たちが手にした材料が、実はどこかの国の熱帯雨林を切ることに繋がっていた…という様なことがないように…というのは責任ある行動だと思います。

衣食住のなかで、フェアトレードというのは、チョコレートの様な食べ物だったり、洋服だったり、雑貨だったりと、衣食は進んでいますけれど、住の部分ではまだまだで。エアサイクルハウジングさんの家づくりは、まさに住のフェアトレードだな…と思います。

 

消費者が力をつけること、とは?

市川
フェアトレードは対等な関係で、作り手をリスペクトするということと同時に、「消費者が力をつける」ことでもある。と先日胤森さんから伺いました。それについてお話いただけますか?

 

胤森
わたしはピープルツリーの中で主に広報とか報道の対応とか、フェアトレードを外に向けて発信していく担当をやっていたんです。その時に一番感じたのはこういうフェアトレードの話をすると皆さんが「知らなかった」「知れて良かった」と、そういう反応をされるんですよね。

今、作り手の顔が見えない関係になっていますけれど、例えばこのチョコレートがコンビニやスーパーで売られていたとして、消費者に与えられている情報というのは「物」「原材料名」「値段」くらいで、それ以外の情報はわからないじゃないですか。

このチョコレートのカカオ豆はどこから来ているのか、お砂糖はどこから来ているのか、そういうのは一切わからないですよね。

一方で、チョコレートのフェアトレードがなぜ必要になっているかというと、カカオ豆は主に南の国で栽培される訳ですけど、特に西アフリカのガーナとかセネガルとかそういったところでは、児童労働というのが深刻で、幼い子供たちがカカオ農園で働かされる。そういう事をなくそうということで、フェアトレードで調達されたカカオ豆とかお砂糖とかを使ったチョコレートを作ろうという動きなんですね。

でも、スーパーに並んでるチョコレートで、このチョコレートのカカオ豆はどこから来てるの?って消費者にはわかりようがない訳です。

それを考えると、消費者は選ぶための手段というか情報がシャットアウトされていて、むしろ弱い立場に置かれているんじゃないかと思うんですよね。

情報をちゃんと知っていれば、「わたしはこっちよりもこっちを選ぶ」という主体的な選択ができるわけですけれども、情報が与えられていないと、安いからこっちにしようかなとなりますよね。

味が同じくらい好きだったら、当然、「安い方を選ぶわ」というのは人の性ですから、悪いことでもなんでもないと思いますけど、正しい情報がちゃんと与えられていないというのが、すごく問題だと思っています。

あとは、洋服であれば、例えばTシャツ。
ピープルツリーのTシャツって5000円くらいするんですよ。一方で、世の中にはファストファッションと言われる1000円以下で買えるようなTシャツもありますよね。

「フェアトレードの物って5倍も高いんだ」ということではなくて、この5000円のTシャツは、どうして5000円なんだろう…というところから遡って考える。

ピープルツリーのTシャツはオーガニックコットンを使っているんですけど、そのコットンの産地では、環境を害さないような方法で農家の人たちがコットンを育て、布を縫製する工場では縫製職人がフェアな賃金を受け取っている、そういう背景でTシャツは5000円になっている。

一方で、1000円しないTシャツは大量生産で安くつくる為に、農薬をつかってコットンを栽培して、枯葉剤を撒いて機械で収穫して、安い賃金で縫製する…という効率化を追求しているので、安い値段でTシャツをつくることができる。でもその陰には農場で働く人達が農薬で身体を害していたり、子供が働かされているとか、そういうことがあって、でもその分こんなに安くなりました、1000円のTシャツです…というわけです。

そして、こちらはオーガニックコットンのフェアトレードの5000円のTシャツです。

そこまで分かったうえで、どちらを選びますか?と言った時に、「善し悪しはわかったけど、1000円のTシャツを選ぶわ」ということであれば、それはその人の選択なのでいいと思うのですよね。

でも、そういう選択の仕方ができていない…というところがすごく残念で、そういうところを変えていきたいなというのが、わたしがフェアトレードへの思いです。

ちゃんと情報さえあれば、5000円のTシャツを積極的に選ぶ人って必ず一定数以上はいると思うのです。

作る人、環境に配慮した品物を選ぶ人が本当はもっともっといるはずで、そこは消費者が賢くなって選択する力をつけることが、フェアトレードを広めていくことの大きな意味だと思ってます。

ピープルツリーの仕事をしていく中で、知らなかった人たちに知ってもらうことが、喜びであり、知った人たちが自分の頭で考えて、自分の力で選択することの手伝いができることが、この仕事の醍醐味ですね。

 

 

物の本当の値段とは?

市川
バングラデシュの縫製工場の大きな事故が映画になりましたね。タイトルなんでしたっけ?

 

胤森

「トゥルーコスト」ですね。

バングラデシュで縫製工場の入ったビルが崩れて、1000人以上の方が亡くなったという悲惨な事故があって。その縫製工場で作られていたのは欧米の有名ブランドだったということで、事故の責任をたどって行けば、安く早く作れと命じたバイヤー側の責任もあるんじゃないかということで、ファッション業界の背景をもっと知ろうという運動が起きたんですね。

その報道に刺激をうけて、ファッション業界の背景を探ろうと考えたのがアメリカのドキュメンタリーの監督アンドリューモーガンという方。当時27歳だった彼と友人と、3人の若者が各地でインタビューをして、バングラディシュの問題だけでなく、インドやベトナムなんかも取材して出来た映画です。

映画の8割はファッション業界の裏側の問題点を告発するという内容ですが、その一部に、「フェアトレードをやっている人たちがいるよ」という形でピープルツリーの活動を紹介しています。

DVDでもご覧いただけます。

「トゥルーコスト」というタイトルは、物の値段の本当のコストは何なのかということを問うている映画です。

 

市川
「トゥルーコスト」という映画を渋谷の小さな映画館で初めて観たとき、わたしは物凄くショックを受けました。
家のことについては、「ひのき」とか「杉」とか、ずっと考えてきましたけど、映画を見た後に「あ、パンツ」と思い浮かんで、下着を買うお店を変えました(笑)。

 

胤森
(笑)。そういうところに一度、問題意識がいくと、見える世界が変わってきますね。

わたしもふと、自分の生活を顧みて「この人参はどこから?」と疑問をもつようになりました。

後半に続く・・・

 


2022年12月4日開催 トークイベント「フェアトレードと顔の見える家づくり」より

【スピーカープロフィール】
胤森なお子さん
NGOグローバル・ヴィレッジ 代表
一般社団法人日本フェアトレード・フォーラム(FTFJ) 理事
1999年ピープルツリー(フェアトレードカンパニー株式会社)に入社。編集や広報を担当しフェアトレードのスポークス・パーソンとしてセミナー講師などを務める。2006年~2016年同社常務取締役。2016年より、同社の母体NGOグローバル・ヴィレッジでフェアトレードの啓発・推進活動を担う。
2011年、フェアトレードを推進する全国の有志で「フェアトレードタウン」等の認定を行うFTFJを設立、2014年~2020年7月まで代表理事を務め、現在は認定事務担当理事。
【ファシリテータープロフィール】
市川小奈枝

エアサイクルハウジング・株式会社ひらい東京

「住む人もつくる人も、50年後の子供たちもハッピーに」をモットーに注文住宅の営業として30年。素材もつくり手の顔の見える家づくりを推進。それは、住む人が快適で、環境問題の解決の一助にもなることを伝えている。