2019
06.10
夏の家を旨とする

夏の家を旨とする

PAC工法開発者のブログ

日本の家づくりの基本は、やはり「徒然草」にあります。

第五五段「家の作りやうは、夏をむねとすべし。冬はいかなる所にも住まる。暑きころ、わるき住居は堪へがたき事なり。…」

現代日本の家づくりは、全く逆さです。
ひたすら冬を暖かくの路線をひた走ってきました。

何しろ昔の家は極端に寒かったのですから。それにしても「冬はいかなる所にも住まる。」とは、昔の人はよほど我慢強かったのでしょうか。

前項で述べた布基礎からアルミサッシに至る変化は、すべて冬暖かくを意図したものでもあります。その結果、冷気や隙間風は抑えられ、確かに住居は暖かく、なりました。

さらに地球規模での省エネ運動で、建物はますます気密性と断熱性をアップし、新しい住宅はいやでも暖かい空間となりました。よかった、よかったと……終わることができれば幸せですが現実はそうはいきません。

何しろ、布基礎からアルミサッシに至る変化は、すべて湿気の害をまねく要素でもあったのです。そして同時に、冬暖かくは「夏も暑く」になってしまいました。

短期間で建物が腐れ始める、結露に悩まされる、カビやダニの大量発生、シロアリ被害の急増そして各部屋にクーラー設備と、その悩みや被害は甚大なものになりました。「冬を暖かく」の技術思想それに基づく開発が引き起こした予測もしなかった事態です。

その対策として、ここ十数年来、断熱材の湿気抜きを目的とした外気を流す通気工法、水は通さず水蒸気は通過させる透湿シート、湿気を調整する建材などが次々と開発されてきました。 

しかし今の所、問題は一向に解決される兆しは見えてきません。

通気工法や透湿シート、調湿建材など一つひとつは確かにそれなりの効果や効能があるものなのですが、それらを生かすためには設計から施工などトータルな工夫が必要です。
ただ使えばいいという小手先の手法では、目的としたこととは逆のマイナス作用すら呼んでしまいます。

日本の気候風土における家づくり、それは根幹から考え方を変えていかなければ、何をやっても中途半端な結果に終わってしまいます。

「冬を暖かく」を第一義においてはダメなのです。

冬を暖かくを旨とした結果、さまざまな害を生んでしまいましたが、その害に一つひとつ対処するという、これまでの方法では解決をみません。

 

家づくりにおいても、西洋医学的対症療法ではなく、心身の根底から健康にしていく東洋医学的手法が必要になります。その根幹思想が、「夏の家」を旨とする、です。

クーラーをあまり使わなくても済む家、建物が腐りにくい家、湿気や建材に使われている化学物質が抜ける家、などが「夏の家」のイメージでしょう。

冬を旨とした家づくりの副作用に、真正面から取り組むと「夏の家」になります。冬の家の副作用は、建物にとっても住む人にとっても、致命的なものです。単に、冬の暖かさを求める目的で無視していいことではありません。

冬の暖かさを考慮しないわけではありませんが、従来の考え方から脱却するために、一旦これまでの「冬の家」を頭からはずして、まず「夏の家」の現代的完成に眼を向けてみましょう。

そのキーワード、それは「風通し」です。

風通しのいい家。ただし風が単に室内空間を吹き抜けるだけではだめなのです。室内空間だけではなく、壁や天井そして床の裏側など、見えない空間にも、風が流れる必要があります。

表と裏の二重の通風が求められます。

さらには夜の外冷気の利用、窓から日射を入れないなど、複合的要素を同時に実現していかなければなりません。何故なのか、そしてその実現のための詳細は次の項以降で詳しく触れていきます。

現在の家づくりにおいて、冬暖かい家なんて当たり前のことなのです。冬暖かくない家を建てるほうが難しいくらいの時代になっています。しかし、そのことは決してプラスの意味ではないことを、再び強調しておきます。

夏、自然のエネルギーでできるだけ快適に、それなのに冬も暖かい家が日本の気候風土には最適なシステムなのです。

冬のことしか考えてこなかった現代の家づくりの技術をベースにして、改良を重ねても、本質的解決には決してならないのです。

夏を考える技術は、湿気から発生するさまざまな問題を根本から解決します。建物の寿命をまっとうさせ、ダニヵビの発生を抑え、さらには建材に忍び込んでいる化学物質を放出させるといった、建物と人の生命に関わる重要課題に建築的手法で取り組めるのです。

その基本技術の上に、冬を考えるというプロセスであれば、現在の冬の家のさまざまな問題点を発生させずに、一年を通じて健康な住まいの実現が可能になります。