2019
07.09
夜の涼しさを日中にとどける

夜の涼しさを日中にとどける 

PAC工法開発者のブログ

自然の暑さを愉しめる家。それが健康な家づくりへの第一歩です。しかし、最近は35℃を超えてしまう日も珍しくなくなりました。いくら自然の暑さを愉しみたくても、ちょっと暑過ぎるかもしれません。

自然の暑さで気持ちのいい汗がかける家。それには一工夫必要です。

それはパッシブな家です。パッシブソーラーハウスのパッシブ。建築的手法で自然のエネルギーを利用できるシステムです。

昔の家は、田の字間取りで風通しが良く涼しかった、と思っている方が多いのではないでしょうか。その通りと言いたい所なのですが、半分当たりが正解です。

外気35℃、その風が室内を吹き抜けても、通り抜ける風の温度は35℃。
決して涼しい温度ではありません。
もう2℃ほど気温が上がれば、体温よりも高くなってしまいます。
そうなれば、肌に当たる風そのものが不快なものと化します。
ある程度気温の低い風が吹いてこその涼しさです。
夏は、朝早くから気温が30℃を超えてしまうことはざらです。
そんな時、ただ窓を開けて風を通したとしても涼しく感じるとは限りません。

自然の涼しさを表現して、「木陰の涼しさ」とよく言いますが、現代の住居では、なかなかそうはいきません・木陰の涼しさという快適性は、樹下の地面が直射日光を受けずに冷えていること、そして、体温より低い温度の風に身をさらすことで得られる快適さです。

室内で木陰の涼しさを得るには、樹下の地面が冷えているのと同様、壁や床そして天井などの温度が、体温よりもかなり低い状況であることが求められます。そこに涼しい風が吹けば、まさしく木陰の涼しさです。

現代の住宅は熱を逃がすことができずに、ためこんでしまいます。その結果、壁や床、天井などが外気より暑くなってしまうことは日常ですし、おまけに断熱性がますます良くなってきましたから、その熱が夜になっても逃げず、外は涼しいのに家の中は暑い、という逆転現象を生んでしまいました。これがクーラーを必需品としました。

現代の住居において、木陰の涼しさを得るには、少なくても二つの要素が求められます。

第一に、室内に入り込んだ熱を外に捨てる機能があること。

第二に、壁や床そして天井などを外気よりも低くする機能があることです。

この二つの機能が同時に存在することで、壁や床、天井は何とか外気より低く保たれ、木陰の涼しさの実現が可能になります。

具体的にどのような建築的手法で実現するのかを見ていきたいと思います。

最初に、建物に入り込んだ熱を捨てる建築的手法から見ていきます。これは二つの手法によります。まず、熱を建物内にできるだけ侵入させないこと。次に、侵入してしまった熱を速やかに排除することです。

熱が建物内に侵入する個所は、屋根面、壁面、基礎面そして開口部と建物の外部すべての面になります。このすべての面をしっかりと断熱することが最初に必要となります。

屋根面、壁面、基礎面を外張り断熱(最近は、住宅の場合も外断熱とよく表現されていますが、住宅の場合は外張り断熱が正しい用語です)の手法で隙間なく施工します。開口部も同様に、断熱性能の高いペアガラスなどでガードします。

家一軒丸ごと、すっぽりと断熱する手法ですが、これだけでは、やはり熱はこもってしまいます。熱を入らないように断熱するということは、逆に、建物内部で発生した熱や外部から侵入してしまった熱も外には逃げないということになります。これが断熱のジレンマです。

このジレンマを解決するために、二つの風通しが必要となります。

PAC住宅夏の仕組み

室内を流れる風通しと、天井裏や壁の中、床下空間などの見えない躯体内空間に流れる風通しです。
室内にダイレクトにこもる熱は、室内の風通しで抜き、部屋周囲の空間にこもる熱を躯体内空間の風通しで抜く、という手法です。

中廊下で分断される何LDK間取り、そして壁の中や天井面・床面に断熱材を充填する方法では実現できないことです。この点から言えば現代住宅の大部分が失格となります。

さらなるポイントは、夜の涼しさを利用して、日中の床、壁、天井を少しでも外気より低く保つ手法です。

これにも二つの要素が必要です。一つに、夜の涼しさを建物内にもたらす機能、二つに、その涼しさを翌日の日中までためておく蓄熱機能です。

昔の建物は、この二つの機能がありました。建物のすべての部分が隙間だらけでしたから、夜の涼しい風が室内に入り込みました。そして土壁が蓄熱体の役割を果たしました。その結果、日中暑い風が通っても、壁が前の夜の冷たさを持ち続ける限り、室内は木陰の涼しさを得られたのです。

躯体内空間の風通しは、夜間の涼しさを建物内にもたらせます。床下空間のベタ基礎のコクリートは蓄熱体として利用できます。この夜間に冷蓄熱された涼しさを、日中再び、躯体内空間の風通しで、床面、壁面、天井面に涼しさをとどけます。

現代版、木陰の涼しさがここにパッシブ住宅として完成するのです。